地球が終わらなかった夜

世紀末星は降らず

君といる未来でまた会えたら —ニンジャバットマン・ザ・ショーによせて—

 
 最愛の舞台の話をしたい。

 

 このブログを開いてくれた方にひとつ質問をさせてほしい。

あなたはニンジャバットマン・ザ・ショー』という舞台を知っているだろうか?

 

タイトル前半の『ニンジャバットマン』に関しては「あー、あの神風動画制作の」という声が上がりそうだ。「南蛮人のファーマーのやつ」と付け加えれば「あれか!」と思い出す方もいるかも知れない。

 

 まずはニンジャバットマンについて軽く説明させて頂きたい。

ニンジャバットマン』とは2018年に公開されたアニメーション映画である。アメリカの大手出版社DCコミックスの誇るヒーロー・バットマンが色々あってタイムスリップしてしまう。なんとその地は日本!それも戦国時代ど真ん中!

 

この時点ですでに力技展開感が否めないのだがこれはまだ導入にすぎない。

 

 実はタイムスリップしたのはバットマンだけではなかったのだ!バットマンの宿敵・ジョーカーを筆頭に6人のヴィランが日本に集結!
更に更にバットファミリーからアルフレッドはもちろん、キャットウーマンと4人のロビンズ兄弟までも登場し、コミックでもこんなに欲張りセットみたいなそろい方する回あんまりないだろ*1くらいのまじでめちゃくちゃ豪華キャラクターが大集結する映画だ。

 

そんな面々が集まって何をするか。それはもちろんバトルである。

現代のゴッサムに帰りたいバットマンチームVS戦国時代って殺生し放題じゃん最高~~!!ずっとここに残りたいぜ!!なヴィランチームとで時空間移動装置を奪い合う。
果たしてバットマンたちはゴッサムに帰れるのか── ざっくり言うとこんな感じの話だ。

 

 ヴィラン達がヴィラン大名」を名乗って各地に城を持ち、その城が変形して巨大ロボになるトンチキ展開だったりレッドフード(しかも声帯が石田彰)がジョーカーをぶん殴りながら言い放つ南蛮人のファーマーがどこにいる!」というパワーワードだったり、あらゆる意味で面白い作品である。

Netflixで配信されているので詳細が気になる方はそちらで見てください。

ちなみにコミカライズ(日本語で読める)もあります。個人的にはコミカライズのほうがキャラクター描写が丁寧で好き。

 

 

 そんなお祭り映画『ニンジャバットマン』が2021年、実写舞台化された。それこそが『ニンジャバットマン・ザ・ショー』だ。(以下、ニンジャバショーと記載する。)

↓公演ダイジェスト動画があるので貼りました

お洒落なピアノイントロから繰り出される「忍法🎶HIP HOP🎶」という癖の強すぎるリリック、何度聞いても最高

 映画から出演メンバーを絞り、バットマンチームはバットマンキャットウーマン、レッドフード+回替わりで[ナイトウィング/レッドロビン/ロビン]からいずれか一人、ヴィランチームはジョーカーとハーレイ・クイン+映像出演のゴリラグロットという布陣である。ストーリーは概ね映画と同じ。

映画との最も大きな差異は台詞が極端に少ない点だ。クライマックスであるバットマンとジョーカーの最終決戦まではほぼ喋らない。所謂ノンバーバル舞台として作られており、タイトル通り本当に"ショー"なのだ。

 

 実は本作はバットマンの初の実写舞台作品である。そんな記念すべきプロジェクト、本国アメリカでやりそうなものなのだがなんとこの作品、日本で上演されていた。ちなみに劇場は池袋シアターミクサ。キャストさんのファンやアメコミのオタク以外で知っている人はかなり少ないと思われるのだが、去年の秋、池袋にはバットマン(公式認可済)がいた。4チームで役替わりをやっていたのでなんなら4人いた。4人のバットマン in 池袋。夢みたいな話である。

 


 では前置きはこの辺りにして具体的にニンジャバショーについて語っていきたい。

 

Q.ニンジャバショーの何が凄いの?

A.アクション

 ニンジャバショー、マジでアクションのレベルが高い。
アンサンブルの方々も含めて全員すごいのだが中でもレッドフードのアクションがとんでもなかった。
本作ではステージが1階と2階に分かれており、2階部分は2-3mの高さがあるのだが、レッドフードはその2階からなんて事ないような顔をして飛び降りてくる。
飛び降りてきたことに目を剥いているとそのままバク宙やらバク転やらなんだか名称は分からないが人間の可動域を超えてるだろレベルのとんでもないアクロバットを連発してくるのだ。多分レッドフードだけ重力が無い世界に住んでる。
 初見時はあまりの身体能力に息を呑みまくり、普通に「ひぇ……」「エッ……!?」みたいな声がめっちゃくちゃ出てしまった。
マナーが悪くて本当に申し訳ないんですけどマジで身構えていないと声が出てしまうくらいのとんでもないアクロバットなんです……見て……
言葉を尽くしても何も伝わらないと思うのでレッドフード役の方の動画を貼らせて頂きます。

↓桜井鷹さん

 

↓弥圓佐助さん

これが前述した例の飛び降りです

 お二人ともすごすぎない????

こういうのがぽんぽんある。毎公演。もちろんレッドフード以外のキャラクターもアクション盛り盛りである。贅沢すぎてチケットの価格設定がバグだと思った。

 


Q.アクションがすごいのは分かった。でも肝心の中身はどうなの?セリフがないってことは薄いんじゃないの?

A.そんなことない

 本当にそんなことはない。本作の素晴らしいところ且つ個人的な最推しポイントなのだが、ニンジャバショーにはバットマンという作品、延いてはヒーローコンテンツに必要な要素が大体揃っている。

「ヒーローは人を殺めることはできねえ でもな、オレには簡単に出来るんだよ バットマン!」

 これは本作クライマックスでジョーカーがバットマンに向けるセリフだ。本当にこのセリフに全てが詰まっている。

バットマンは不殺のヒーローだ。どんな悪党であろうと決して命を奪うことはしない。しかし、コミックでも彼の不殺というスタンスは敵のみならず時には味方や市民からも甘いという指摘を受けることがある。

本作ではそんな賛否両論ある不殺主義の尊さを、バットマン自身の不殺への葛藤を通し、改めて客席に投げかけてくる。これがめちゃくちゃに良くて見る度に泣いてた。

 

 悪党を倒すのも勿論ヒーローの役目なのだが、ヒーローには他にもやることがある。人々の救出だ。ニンジャバショーはそこのところもしっかりと描いている。

これはバットマンが燃え盛る炎の中から仲間を救出するというシーンだ。シンプルにめっっっちゃくちゃかっこいい。ちなみにサムネは『バットマン:デス・イン・ザ・ファミリー』の表紙オマージュ

かなり手遅れそうな仲間も絶対に見捨てず、あえなく命を落としてしまった者には誠意をもって弔いをする。泣くほどかっこいい。実際私は見る度に咽び泣いていた。

 

 その他のシーンでもバットマン側チームは戦闘中に倒れた仲間を絶対に舞台袖まで運んでいってくれたりする。メタ的な話をすると舞台上での死者の処理なんて大体は倒れさせたまま暗転まで放置だろう。それをこの舞台ではヒーロー達が送り届けてくれるのだ。ヒーローコンテンツとしてあまりにも正しすぎる。咽び泣きました。

 

 ヒーロー要素もさることながらバットマンという作品の大事なポイントだと個人的に感じているなんだかんだバットマンって一人じゃないし仲間めっちゃいてだから強いんだよね、も作中テーマとして取り扱ってくれている。80分で盛り沢山すぎる。一本満足にも程があるだろ。

他にも演者さんのキャラクター理解が深かったり、キャラクター同士の関係性の表現*2だったり、役替わりによるキャラクター解釈の違いだったり色々旨みが止まらないのだがそこまで言及すると卒論の文字数になるため割愛します。

 

Q.このブログで言いたいことって結局なんなの

A.ニンジャバットマン・ザ・ショーを見てください

 本作は現時点で円盤化されていない舞台である。しかし映像配信は存在している。その期限は2022年12月20日まで。つまり2022年12月20日以降は一切の視聴手段が無くなる。

 

端的に言います、まだ間に合うので配信を見てください!


ひかりTVのエントリープラン(月額350円)で役替わり4チームの千秋楽映像が見れます。ちなみにひかりTVは初月無料です。

ひかりTV - 見るワクワクを、ぞくぞくと。
コミックのバットマン関連キャラクターが好きな方、映画版が好きな方、カートゥーンで見ていた方、バットマンなんも知らんけどちょっと気になるなと思った方、ぜひ……!

 

お行儀が悪いことは承知でTwitterバズり構文みたいなフックも設置しておきます。

・レッドフードの長すぎる虚無僧笠←あります*3
・「南蛮人のファーマー」←あります*4
・城変形バトル←あります
バットマンとジョーカーのエモい関係性←あります*5

・バットファミリーの絆←あります
・露天風呂でゴリラグロットとラップバトルをするバットマン←あります
・教育番組の体操のお兄さんみたいなナイトウィング←あります
バットモービル←あります
・バットカイト←あります
・映画『JOKER』の階段ダンス←あります*6

 

露天風呂でゴリラグロットとラップバトルをするバットマンに関しては本家映画にもコミックにも存在してないシーンなのでマジのガチでここでしか見れないコンテンツです。
みんな見たくない???バットマンのラップバトル。これを逃したら死ぬまで見れないと言っても過言では無い…
1公演80分で気軽に見れるのでどうか………どうかお願いします……


最後に.

 2021年の秋は気の滅入る報道が多かった。当時の私はそう言った話題のダメージをモロに受けてしまって、なんで現実世界にヴィランがいてヒーローがいないんだろう。どうしてバットマンがいないんだろう。と、バカみたいなことを心の底から考えて落ち込んでいた。
そんな時にニンジャバショーを観た。
華麗なアクションで敵を蹴散らすバットマン。どんな困難にあっても絶対に仲間を見捨てないバットマン。例えどれだけ悪人であっても命を尊重するバットマン
ヒーローは圧倒的な質量と存在感、そしてえげつないくらいの説得力を伴って私の前に現れた。
バットマン、いるじゃん。
嘘偽りなくそう思えて涙が止まらなくなった。
2021年11月、シアターミクサには間違いなくヒーローがいた。
私は死ぬまでこの公演のことを忘れない。老人ホームでニンジャバショーごっこ絶対する。

 

 

※ この記事のタイトルである「君といる未来でまた会えたら」はニンジャバショー終盤、バットマン達がゴッサムへと帰る時に流れる曲「HEROES」の歌詞の一節だ。
再配信、円盤化、再演、第二弾、形は問わない。どうか12月20日以降もニンジャバショーと出会えるように、という祈りを込めて引用させて頂きました。名曲なのでぜひ配信で聞いてみてください。

 

*1:本当にこんなに揃ってる回はレア

*2:闇チーム千秋楽のバッツとジョーカー/バッツとナイトウィング/バッツとジェイソンめっっちゃ良かったので該当関係性が好きな方ぜひ......!

*3:桜井さんレッドフードだと笠被ったままアクションしてくれたりもする

*4:セリフほぼないのに何故か採用されていて初見時に吹いた

*5:「エンドロール隣で頼むよ」「お前ありきだし」なジョーカー→バットマン、最高すぎるのでお願いだから見て

*6:確かこれは夜チームのなだぎ武さんジョーカーだけだった気がする